三宅一生さんが亡くなりました。
ファッションデザイナーとしての彼の偉業は言うまでもありませんが、服飾業界の枠にとどまらず他分野に於いても多大な影響を与えた人でした。
私は20代の頃に従事していた仕事で、イッセイブランドの縫製をする事もありましたし、今も時々お手伝い程度に量産縫製に関わらせて頂く事もあります。
そのデザインはシンプルでありながら計算しつくされ、服を構成するひとつひとつの素材もこだわり抜かれた、完成度のとても高い作品です。
その製造の一端に携わる事はある種の喜びでもあり、同時に身の引き締まるものがあります。
しかしながら長い間、私の中で三宅一生という人物の理解は、私が仕事で関わるごく狭い範囲のものでしかありませんでした。
ある頃から私はプロダクトデザインに興味をもつようになり、関連する本を読んだりする中で、名だたる建築家やアートディレクター、プロダクトデザイナーたちと三宅一生さんとの関わりについて知るようになりました。
彼の服作りの根底にある「一枚の布」というコンセプト。
このルーツが彼の生まれた広島という地であり、イサム・ノグチの「平和大橋」であるという事がここで結び付くのです。
その発想が単にファッションという狭い世界の中で生まれたものではない、という事実にようやく気が付くに至りました。
倉俣史郎、安藤忠雄、深澤直人、吉岡徳人・・・
三宅一生さんの影響をうけた人物の作品には共通するものを感じます。
それは言葉にするのが難しいのですが、その根底にあるのが平和であり、地求愛、人間愛であり、見えない形を具現化する熱量のようなもの。
そして、その作品を目にし、手にした人々へと共感が静かに広がっていく。
アートやデザインが出来る事の可能性を限りなく広げてくれた人が三宅一生という人だったと思います。
その想いを受け継いだたくさんの人たちが、それぞれにこれからも世の中に清々しい風を吹かせてくれることでしょう。
小さな小さな存在である私も、自分にできる仕方で私が受け取った想いを伝え、日々の仕事に向き合っていきたいと思います。