母と「手アイロン」

こんにちは~(^^)/

洋裁の作業は色々ありますが、その中でも難しいのが「アイロン」。

アイロンの重要さは今までもお話してきましたが、アイロンの仕上がりを見れば、作り手の気の遣い方がわかってしまいます。

技術的なものももちろんありますが、「どれだけ誠実にその作品に向き合っているか」という事がアイロン仕事に表れてくるように思うのです。

例えば縫い代を割ったり、片倒しにしたり、という作業。

ちょうど縫い目で折れず、少しキセがかかってしまう、というのは良く起こりがちですね。

なんとなくササーっとかけてしまうと、ゆるやかにカーブしている部分・・・例えば脇線のウエストあたりなどがそうですが・・・にキセがかかりがちです。

でも、アイロンを当てる前に必ず左手(アイロンを持つ反対の手)の指を使って縫い代を割ったり倒したりして、確認しながらアイロンをかけるようにしていれば、不要なキセはかかりません。

言わばアイロンの前に「手でアイロン」するわけです。

弾力があって「手アイロン」が効きにくい生地の場合は、左手の5本の指を使って、縫い代が起きてこないように押さえながら、丁寧に少しずつアイロンしていきます。

失敗したアイロンの跡というのは、やり直したところで意外ときれいに消えてくれません。
極力、不要なアイロン跡を作らない様、最初から気を遣って作業したいものです。

 

また注意しなければいけないのが、「縫い代のアタリ」です。

縫い代を割ったり倒したりの時に、力を入れてアイロンを押し付けると、表側に縫い代部分の跡(段差)がはっきりと付いてしまいます。
特にロックがかかっている縫い代はアタリが出やすいですよね。

かと言ってしっかりアイロンしないと、かかりがあまくなってしまい、縫い代が起きてきてしまいますよね。

こういう時は縫い代の下に雑紙をはさみ、縫い代の凸凹が下の生地にひびかないようにするのも一つの方法です。

こんな風に紙を細長くカットして、写真のように中心と両端に矢羽根状の切り込みを入れます。

 

縫い代の下に差し込みます。

 

アイロンします。

 

この方法、縫い代のアタリを防ぐにはとっても良い方法なんですが、いちいち紙を挟むのが意外と面倒だったりします。

そんな時私が良くやるのは、スチームを当てておいて、そのままアイロンで押さずに「手で押さえる」という方法。

アイロン面は広いので縫い代全体に圧力がかかってしまいますが、手の平や指なら、中央の縫い目の部分だけを押さえる事ができますし、力の加減も自由自在です。

私はバキュームアイロン台を使っているので、スチーム直後の布を素手で触ってもそこまで熱くはありませんが、バキュームがない場合は、何か薄手の手袋をした方が良いかもしれません。

ポイントはやはり「手」を使うという事。

私は機械や道具類が大好きですが、こういった繊細な作業の時は「手に勝るものはないなぁ」とつくづく思います。

 

ところで・・・

私が子どもの頃の話です。

外干しで乾いた家族の洗濯物を、母がていねいに畳んでくれるのですが、それがアイロンをかけたかのようにピシッとシワひとつ無いのがとても不思議でした。

私がやっても全然同じようにできないので、どうやったらそんなにピシッとするの?と聞いてみると、まさに「手アイロン」をやって見せてくれたのでした。

畳みながら、手で布をやさしく何度も撫でて、シワを伸ばしていくのです。

家族全員のブラウス、パジャマ、タオル、靴下まで、全ての洗濯物に手アイロンを当てていく母。

こんな事を毎日やっていたのか・・・

子ども心に「お母さん、えらいなぁ」と思ったものです。

 

これは余談ですが・・・

私の小学校の体育着・・・エンジ色のジャージのズボンは、摩耗のためビッシリと細かい毛玉ができていました。

ある時、ふと見ると、母が膝の上にジャージを乗せて、握り鋏で小さな毛玉を一つ一つ切り取っていたのでした。

「毛玉取り器」などという物は存在しなかった時代。
セーターのような大きな毛玉と違い、1mmにも満たない無数の毛玉。
考えただけでも気が遠くなります。

しかも、ジャージなんて別に何の愛着もないし、毛玉なんて当の自分は全く気にもしてなかったのですから。

「ほら、こんなにきれいになったよ」と、母が差し出す「お尻の一部分だけがツルツルになったジャージ」を受け取り、何とも言えない気持ちになった事を思い出します。

 

こんな思い出が原風景となって、私にこの仕事を選ばせたのかもしれないなぁ、などと考えてみたり。

洋裁はとかく面倒な作業が多いものですが、心穏やかに、愛情を持って作品に向き合いたいものですね(*^-^*)

 

それではまた~(^^♪